推薦の言葉
Mozilla プロジェクト発足から 10 年。インターネットの世界は様々な分野で、今まさに節目を迎えています。特に、目覚ましい成長を遂げているWebは、多くの人にとって生活や仕事の一部に組み込まれ、ますますなくてはならない存在となりました。
あらためてこの 10 年を振り返ってみると、環境の変化にはとても驚かされます。あの頃はまだ「オープンソース」という言葉など一般には知られていませんでしたし、ネット企業各社が顧客の囲い込みに奔走する中、その対極にあった「オープン」の意義に気付いていた人は、ほんの一握りに過ぎませんでした。1998 年に Netscape 社が会社の資産とも言うべきブラウザのソースコードを公開した時、「オープン戦略」「マッシュアップ」といったキーワードが踊る Web の世界が来るなどと、誰が想像できたことでしょうか?
しかし、Mozilla はその時から既に、現在注目を集めている Web アプリケーションのプラットフォーム技術を設計し、ブラウザの将来性に賭けていました。まさに今、この時を予測していたかのようにも思えます。
Mozilla の最初の 5 年間は、プロジェクト失敗かとささやかれながら、献身的なエンジニア達によるブラウザ開発の模索時代がインターネット上で繰り広げられました。その後、一度統合ソフトとして作り上げた Mozilla Suite を再解体する試みとして、スタンドアロンの Firefox ブラウザが誕生します。そして 2004年11月、Mozilla Firefox の出現で、それまで停滞していたブラウザ業界には技術革新が、ユーザにはブラウザの新たな選択肢がもたらされたのです。
Firefox の市場シェアが上がるにつれて、Web 開発者の意識にも変化が訪れました。Web 標準の重要性、オープンスタンダードの意義が改めて認識されるようになり、デバイスやブラウザを問わずアクセス可能なコンテンツが増えてきているのは、皆さんご存知の通りです。
2008年6月、Mozilla は、様々なデバイス上で最適な Web 体験を実現する、アプリケーションプラットフォームの最新版として、Firefox 3 を世に送り出しました。約 3 年の開発期間を費やした結果、かつてない高速化と省メモリを両立し、使いやすさや安全性の面でも最高のブラウザに仕上がりました。公開初日だけで 800 万ダウンロードを達成し、ギネス世界記録を樹立した Firefox 3 に、 Mozilla はどのようなメッセージを託したのでしょうか? それは、目に見える機能だけでなく、確かな技術に支えられた Firefox という重要な側面に光を当てて、初めてお分かりいただけるのではないかと思います。
わざわざインストールしなければ使えないにも関わらず、これだけ多くの皆さんから支持をいただけたこと、つまり、「知らないうちに誰かから与えられた」ものではなく、良いものを自分で吟味し選択するという、ユーザの行動に変化の兆しが見られるようになってきたのも、インターネットが実用的になり、何でも「選ぶ」ことが当たり前な現実世界の延長として利用されるようになったことが理由として考えられるでしょう。気がつけば、一部のエンジニアだけが使う特別なツールでしかなかったオープンソースソフトウェアが、Firefox の普及によって世界中の何千万もの人たちに行き渡っていました。
Firefox のリリースごとに確かな革新を起こし続け、Web の世界、インターネットの世界へ影響を与え続けた Mozilla の技術。この 10 年を支え続けてくださった Mozilla プロジェクトの日本のメンバーが綴った本書にて、その全貌が明らかになることでしょう。
本書を手に取られた皆さんは、ブラウザとして、また、Web アプリケーションプラットフォームとして、Mozilla の技術が様々な分野で活用できることに気付かれるでしょう。オープンソースを基盤としたものづくりの第一歩が、今ここに始まったと確信しています。10 年後のブラウザ、そして Web の世界を、本書を元に設計してみませんか?
2008年7月
有限責任中間法人 Mozilla Japan
代表理事 瀧田佐登子